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走る二人の人間を、“それ”が集団で追跡してくる。異形の姿をとりながら、その動きは驚くほどに俊敏だ。今の速度でこそ追いつかれはしないが、全力で走らなければたちまち追いつかれてしまうことだろう。
「くっ……速い!」
さらに、死を呼ぶ追跡者の数は次第に増えていく。最初は数体しかいなかったものが、今では十数体にまで増えている。
(このままじゃ───)
少女は少年の手を離さないようにしっかり握り、走る速度を限界を超えてさらに速くする。次第に息が切れてくるが、それこそ立ち止まって息の根を止められにいくような真似をするわけにはいかない。
(あたしたちにも、魔法が使えたら……)
走る傍ら、少女は内心で舌打ちをした。
───魔法。
この世界の様々な物質に宿り満ちた不思議な力『魔力』を媒体として様々な事象を引き起こす術である。その行使に強い効果を生み出すには術者の先天的な才能、そして制御のための精神力が深く関係しているという。
通常、この国において専門的に魔法を教える学校を除いた普通の学校で魔法を学ぶ事が出来るのは、その制御力の発展具合などの関係から高等教育過程の中である。なので、実のところ初等部と中等部に属している彼女らはまだ魔法を行使することができない。対して襲い来る“それ”は、それこそ高等な魔法ではないものの、火球を生み出し投げつける魔法を使っている。
「ないものねだりしても仕方ないか・・・頑張って、もう少しだよ!」
そう、今はできないものに頼っている余裕はない。大事なのは、今ある命を失わないこと……少女はそう自分に言い聞かせて諦め、再び走ることに専念する。
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