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プロローグ
『ロック』と言う音楽にはまり込んだ一人の男がいた。
すでに『ロック』と言う音楽のジャンルが社会的に廃れてしまってからしばらくし、世の中にはトランスやポップスが溢れていた。
市街地を歩けば聞こえてくるのはゆったりしたリズムのバラードだったり、激しいシンセサイザーの音だったり、あるいはフォークギターやアコースティックギターの音色だったりする。
そして路上ライブをやるのは、大概一人でフォークギターやアコースティックギターを構えていたり、CDプレーヤーを持ち出してダンスの練習をしたりしていた。
誰もが、もはや彼のようにエレキギターを構えて一人でロックな音楽を練習する者を軽蔑した。
しかし、それでも彼が欲するのは、そんな商売第一のような社会的に認められた音楽ではない。
激しいエレキギターの爆音や豪快なシャウト、ドラムやベースの重低音。彼はもう廃れてしまった音楽である『ロック』に憧れていた。
学生時代にもエレキギター片手に体育館のステージに上がり、派手なパフォーマンスで客を沸かせた・・・訳が無い。
どんなに派手にやろうとも、『ロック』が入った時点で皆引く。
そして、空き缶などを投げつけられ、そのライブは中止となった。その荒れに荒れたライブに関して、彼は責任を取って謝罪し、壊れた備品を弁償するまで、表社会でロックは歌わない事を約束した。
この話はそんな過去を持つ、社会からつま弾きにされかけの一人の男の物語である。
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