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『ママ、綺麗だね♪
このお花の名前は何?』
『これは桜よ。春になると、この大きな樹に咲くの。
本当に綺麗ね♪』
『さくら…ママと同じ名前だ!!』
『あら、そう言えばそうねぇ。』
『そっか。だからママも、この樹の"さくら"と同じで綺麗なんだ♪』
『ふふっ、ありがとう♪
ママのパパとママに感謝しなきゃね。』
『うん♪』
懐かしい。
昔の母さんと俺。
これは夢。
分かっている。
だけど、もう少しだけ母さんとの時間を…。
『桜が綺麗な理由…知りたい?』
『うん♪』
うん。
『それはね…。』
『…。』
何?
何て言ってるの?
さっき迄は普通に聞こえていた筈の母さんの声が聞こえない。
口をパクパク動かし、昔の俺の耳元に囁く。
その声が聞こえない。
昔の俺は母さんの言葉を聞き、瞳をキョトンとして首を傾げている。
何を言われた?
一体、何を言われたんだ?
もう一度、大きな声で言ってくれ!!
言ってくれよ!!
「こらっ!!荒井起きろ!!」
「うがっ!?」
頭に鈍痛、耳元には良い年した男の怒鳴り声。
俺は頭を両手で擦り、顔をあげた。
「荒井…そんなに俺の授業がつまらないか?」
右手に拳を握り、数学担当の井上が尋ねる。
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