桜の季節

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「あ…いえ…すみません。」 俺が謝ると井上は何事もなかったかの様に教壇の前に戻った。 数学の授業が終わると、俺の前に座る内藤一(ないとう・はじめ)がニヤニヤ笑いながら俺に話しかけて来た。 「…お前、最近ちょっと可笑しいんじゃないか? 春の陽気で眠くなるのは分かるが…それにしても寝過ぎだろ? 国語の授業でも寝てたし、体育でサッカーしてる時も立ったまま顔面にボール食らってた。 大丈夫か?」 確かに最近、眠くて眠くて…気が付くと"あの夢"を見ている事が多い。 桜の時期だからだろうか? 「大丈夫だ。それに…母さんに会ってただけだから。」 大好きだった母さんに…。 「お前の母さんって、お前が小さい時に家出したんだよな?」 内藤の言葉に俺は無言で頷く。 あの(夢の中)桜の樹を見た後に母さんは俺と父さんの前から消えた。 父さんが言うには 『好きな男が出来たから向こうに行く。 慎吾(しんご)は邪魔だから置いて行くわ。』 そんな勝手な事を言って出て行ったらしい。 だけど俺は、父さんの言葉を信じちゃいない。 母さんは綺麗で優しい人だ。 俺の記憶に残ってる母さんは、いつもニコニコ笑顔で優しく俺を包んでくれた。 そんな人が俺を置いて出て行く筈は無い。
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