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「な…何なんだよ、くそっ!いつもは全然、俺の事なんて見向きもしない癖に…」
薄暗いリビングで、2つの影が重なり合う。
「本当はこんな風に、私に構って欲しかったんじゃないのか?だから…私の気を引きたくて、紗莉夢(あのこ)にあんな事をしていたんだろう?」
ゆらゆらと2つの影を揺らすランプの灯(あかり)は、数少ない貴人のお気に入りの1つだ。
「そ…んな訳ないだろっ!は…離せ…」
小さな抵抗を繰り返す真人の指を絡め取り、そこに唇を寄せる。
「真人…お前は小さな時から、私の事が好きだったな?」
貴人の唇が真人の名を呼び、その指が優しく真人の髪を掬う。
「めんどくさがりやのお前が、この一定の長さを保ち始めたのも、私が『切るな』と言ってからじゃなかったか…?」
真人が肩より短く髪を切らなくなったのは、遠い記憶の中にある貴人の言葉があったから…
それを指摘され、真人の睫毛が小さく震えた。
「可愛い真人。私は、お前を愛しているよ…」
ソファに身体(み)を預け、真人が静かに貴人を見上げる。
「…嘘つき。」
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