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囲炉裏の前で、一人の男が灰をかき混ぜながら鍋に入れた具材に火を加えて煮ていた。
所謂…山鍋狩りや狩猟で得た自然の動植物を自給自足で賄い、ひと冬の蓄えを十分にして準備を終えて今やっと腰を落ち着けた所である。
「今夜も冷えるな…外は完全に雪に閉ざされてしまった。誰も訪ねて来る者も居ない…」
鍋の中には保存していた猪の肉を丁寧に切り野菜や山菜とを味噌で煮込んだ汁をグツグツ火に掛けたまま数分が経過した。
その時…裏の方角から狼の遠吠えに近い獣の鳴き声を聞いたような錯覚を、耳の奥の鼓膜を震わせた。
「…こんな山奥に…動物達は山籠もり冬眠に着く筈なんだが…」
立ち上がりサッシの隙間から耳を近付けて…聞いてみる。
今にも消え入りそうな…悲痛な鳴き声が山の奥から聞こえる。目を見開き…壁に書けていた外套を取ると何かを思い立ったように、外へと飛び出していた。
「こりゃいかん…」
膝まで雪の中に足を埋めながら必死でかき分けて前に進み、一本の大木の洞穴に仄かな光を放つ場所へ辿り着いた。
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