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その時、背後から物音がしてヴァーツラフは振り返った。
「なんだ……お前か。悪いな、起こしちまったか」
そこには寝ぼけ眼の少女が立っていた。小さな少女はヴァーツラフの隣にちょこんと座り、満天の星空を見上げる。
「………まったく、今夜は呆れるくらいに星がよく見えるな」
ヴァーツラフもゆっくりその場に座り、少女と一緒に夜空に目を向ける。
「綺麗だよな」
傭兵の言葉に、少女は小さく頷いた。
「あの空でキラキラ光ってる星ってのは、この薄汚れた世界で珍しく、俺が心の底から綺麗とか思えるもんだ。……少なくとも、あの星たちはな」
見上げた夜空に散りばめられた星。まるであまたの宝石のように輝くその姿は、戦いに生きるヴァーツラフにとって心癒される拠り所。ヴァーツラフは一つの星を指差した。
「あの星はな、俺に似てるんだよ」
少女が不思議そうな顔で小首を傾げる。
「ほら、あの辺にやたらでっかい星座が見えるだろ? ありゃオルガノっていう竜の星座だ。で、そいつの横で赤く光ってんのがアテスって星だ」
漆黒の夜空に赤く輝くアテス星。その輝きを指差して、ヴァーツラフは言葉を続ける。
「神話じゃアテスとオルガノは犬猿の仲で、いつも喧嘩が絶えなかったらしい。まぁ、理由の大半はアテスがことあるごとにオルガノにふっかけてたらしいんだがな」
ゆっくり紡ぎ出されるヴァーツラフの話に、少女は興味津々といった表情だった。大きな瞳をキラキラと輝かせて続きに聞き耳を立てている。
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