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「御用改めですよ。ほらほら、観念して死んじゃって下さい」
そう邪気の無い笑顔で、情け容赦ない辛辣な言葉を吐くのは、
「うぐ…貴様、一番隊の…………沖田総司…っ」
「おや?よく私を御存じで」
沖田総司と呼ばれた青年だった。
彼はその強さゆえ、二十歳という若さで新選組一番隊組長の位に選ばれ、周りの皆からは天才剣士とも呼ばれている。
漆黒の滑らかな髪を頭上高くひとつに纏め、その顔は美しく整っており、どこか女性めいた造りをしていた。
新選組といえば、幕府に敵対する攘夷派を取り締まり、いわゆる殺しも認められている警察機関だ。
「なら私の強さもお分かりでしょう?下手な抵抗はやめた方がいい…」
「ひっ…見逃してくれ!なんだってするから!!」
攘夷派の浪士は泣いて命乞いを始めた。
沖田は、ふむ。と顎に手をあてると、次いでにこりと微笑んだ。
「………いいでしょう。私を知っていたご褒美です。…どうぞご勝手に」
そう言って屋敷の勝手口を手の平で示す。
「お、恩に着る!!」
そして、男は脱兎の如く逃げ出した。
その背中を見送りながら沖田は、
「あ、そうそう。見張りの隊士達には、貴方を逃がすよう伝えてませんから…」
思い出したように小さく呼び掛けるが、当然男の耳には届かず。
数秒後…
「ギャアアアアア」という、男の断末魔の悲鳴が辺りに響き渡った。
「あはは、駄目でしたねぇ…、ご愁傷様です」
その悲鳴を聞いた沖田は、唇の端を吊り上げて妖しい笑みを浮かべたのだった。
これが、彼の裏の顔。
そして…
そんな彼の性格をよく知る、一人の少女が存在した…
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