彼女は新撰組女中

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うん。これは気のせいじゃないね。 そう… (完っ璧に馬鹿にされたぁぁああ!!) とうとう、雪恵の堪忍袋の緒が切れた。 「っこんの…総司の馬鹿!あほ!短足!!」 思い付く限りの罵倒を浴びせるが、彼は涼しい顔で笑っているばかりだ。 「お馬鹿な貴女に一つ忠告してあげますよ」 そして出て行く直前、沖田は実に優しげな微笑みを浮かべて言う。 「中傷とは、相手の気にしているところを責めなければ意味を成しません」 ゆえに。 「私は馬鹿でも阿呆でも短足でもありませんから、別に痛くも痒くもないんですよ」 「な…っ」 雪恵はパクパクと口を閉口させる。 「馬鹿と言われて怒るようでしたら、それすなわち自分自身で馬鹿と認めている証拠です」 唖然として固まった雪恵に、軽く手を振り… 「それじゃあ、せいぜい頑張って下さいね。お馬鹿さん」 そう言って、今度こそ沖田は出て行った。 その場に残された雪恵は、最初は微動だに出来なかったが、一時してから、呪縛が解けたかのようハッとする。 次にプルプルと肩を小刻みに震わせると、天井目掛けて声を張り上げた。 「死ねぇぇえ総司ぃぃいぃ!!むしろ殺すぅぅうう!!」 その後、屯所内に響き渡った彼女の雄叫びに驚いた全隊士が駆け付けた。 その中でも、額に青筋を浮かべた土方に、永遠と説教をされたのはいうまでもない。 「あはは…っ!どうして彼女はああも…」 遠くからでも、雪恵の叫びが聞こえた総司は、腹を抱えるように笑い転げた。 「ははっ、ほんと…真っ直ぐな子なんですから…っ」 私に人望がある? 冗談じゃない。 あっても、所詮それは偽り。 (…最初っから、勝負にはならなかったんです) 本物の前では。 「私に言わせれば…貴女の方が人望が厚いんですよ?雪恵さん」 沖田はそっと呟く。 (貴女は、あまりにも自分の価値を知らなすぎる…) 決して他人を寄せ付けない土方が唯一、心から気を許している女性だ。 しかも、女人禁制とされる屯所を、自由に徘徊しても誰にも咎められず、むしろ隊士達には歓迎されている。 けれど、そんなことを親切に教えてあげる沖田でもない。 「ひとり空回って馬鹿をやる貴女の姿を見るのは、私にとって一番の楽しみですからね…」 くすくすと笑う沖田は、きっと土方に怒られているだろう彼女の姿を一目見る為、元来た道を引き返したのであった。
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