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「…右に背く者は、切腹を、申しつける……か、また随分と物騒な決まりごとだな…」
昨晩、土方が用意したという局中法度書に目を通し、雪恵は軽く眉を寄せた。
「はは、仕方ありませんよ。書いた本人が物騒な人なんですから」
「……それ、土方さんの前で言ってみなよ」
そう言うと、目の前の青年は唇の端をあげて笑み、無言を貫いた。
(…言うわけないよな……)
小さく溜め息を吐いた雪恵は、呆れたような目付きで彼を見据える。
この沖田総司という青年。
もう彼とは長い付き合いになるが、今だに攻略不可能な男だ。
表面は、常に笑顔を絶やさない好青年。
しかし、その腹の内は…
「今から行う集会で、この法度書を公開するんですよ。ふふ、皆が恐怖に凍り付く顔が目に見えるようで…楽しみです」
月の光も届かない夜の闇の如く真っ暗だ。
もう慣れたこととはいえ、彼の二重人格ぶりには、いつも頭を悩まされる。
「だいたい、この…士道に背くまじきこと…って、総司は当てはまってないか?」
「おや?私はこれでも、刀を交えた敵を仕留め損なったことはありませんよ?」
沖田はわざとらしく首を傾げ…
「そう、例え…………命乞いされたとしても………ね」
ニヤリと、意地の悪い笑みを浮かべた。
「………ごめん間違った。お前が背いてんのは人道だったわ」
雪恵は、もはや諦めにも似た気持ちになり、深い溜め息を吐く。そして手の書状を沖田に返すと、彼に背を向け歩き出した。
「雪恵さん!?どちらへ?」
若干慌てて沖田が引き止める。
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