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同日、同時刻、機動六課隊舎3㎞地点。
「はあ…はあ…はあ」
荒くなり始めた息を整えながら、フェイト・T・ハラオウンは再び空へと舞い上がった。汗の雫が重力に従いこぼれ落ちる。
「なんなんだろ…あれ…?」
フェイトの目の先には、一体の異形がいた。
全体的にコードが露出した全身。太い何本ものコードと、その周りの細いコード群によって構成された足。普通の金属では有り得ない光沢を放つ胴体。鋭い爪のついた腕。そして、何十本もの牙の生え、目に当たる部分が見当たらない醜悪な頭部。そのおぞましい姿は、どこか蛭類を連想させた。
その異形―チュパカブラドールマターは六課隊舎の方向へ現在も歩を進めていた。
フェイトの真下、チュパカブラドールマターの進行方向には数人の陸士が砲撃魔法で攻撃しているが、一向にきいている気配を見せない。
だが、そのうち相手をするのが面倒くさくなったのだろうか。突如歩を止めると、口を大きく開けた。
「危ない!」
危険を察知したフェイトが慌てて陸士の間に割り込もうとするが、それにはあまりに遅すぎた。
チュパカブラドールマターは口から透明で先端に注射器のような物体が装着されたチューブを発射したかと思うと、それは応戦していた陸士の一人の首筋に刺さった。
「ぐっ!」
陸士はそれを必死に引き抜こうとするが一向に抜ける気配はない。
そのうちに、透明だったチューブが赤く染まっていった。外からの要因ではない。内部になにか液体が通っているようだ。
それはとてもとても生臭い色をしていた。そしてフェイトは、そんな色を出せる液体を一つしか知らない。
すなわち、血。
十五秒ほど経ってチューブが引き抜かれると、陸士“だった”ものは力無くその場に崩れ落ちた。
その体は、まるでミイラのようにカラカラに乾いている。
目の前で人が死んだことによる吐き気を抑えながら、フェイトは奥歯を噛みしめた。口に僅かな血の味を感じる。
「また、救えなかった…」
この怪物によってフェイトの目の前殺された人間はこれで三人目だった。
一人目は現場に駆けつけた時にはもう血を吸われ始めていた。二人目は逃げる民間人をまるで見せしめるように殺害した。
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