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「みなさん、ありがとうございました。兄さんも救われたと思います。」
最初に口を開いたのはリンだった。深々と頭を下げ、感謝の意を伝える。顔を上げると、ナオキがリンにスッと手を差し出していた。意図が分からずにリンが首を傾げる。
「リン、俺の手を握って。」
「え……?」
「いいから。」
笑顔でナオキは言った。戸惑いながらもリンはナオキの手を握る。
「……っ!」
きゅっとナオキが手を握り返した瞬間、リンの表情が変わった。
「ナオキ、何したんだ?」
「時間を渡したんだ。」
「時間?」
「そう。キルトから貰った時間。キルトがリンと過ごした思い出の時間だよ。あと、これ。」
ナオキはリンの手のひらに、小さなモーターを乗せた。一センチくらいの大きさで、銀色に光っている。ティーゼがナオキに頼まれて、壊れたキルトの部品からひとつ持ち帰った物だった。
「これしか持って帰れなかったけど……。キルトもリンの所に一緒にいたいと思ってさ。」
そう言ってナオキは微笑んだ。リンは一度ナオキの顔を見て、キルトの体の一部だったモーターに視線を落とした。それから目を細めて、そっとモーターを抱きしめる。
「おかえり、兄さん……。」
そして頬を涙がひとすじ、静かに伝った。
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