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ざわざわと、騒がしい教室。他愛もない話が行き交う。
「ユキコ、また来てるよ」
「懲りないよねぇ」
前から三番目の窓際の席に座る私を二人の友達――由美と多恵――が囲んで教室の雰囲気に一体していた。そこに、乱暴な拳の音。
ビクッと肩をすくめる。
一瞬にして静まるクラスメート。
「林ユキコは?」
低い声。
「窓際に……います」
乱暴な足音。
「あ、あたしたち向こう行くね!」
あっという間に私の側を離れる友達。
「おう」
男の、人。
「……前座っていいか?」
怖くて声が出せない。コクリとうなずいた。
彼が座ると、教室は活気を取り戻す。ちらちらと、こちらを気にしながら。
「林サン」
私の目線は机の上の小さな傷をなぞっている。
「俺の名前、覚えてくれた?」
冷や汗が出た。物覚えの悪い私は、いくら印象が強くても――逆に強すぎて、覚えられなかった。ただ名前を聞くより怖さが勝った、という方が正しいかもしれない。
黙ったまま震える私に、彼は言った。
「三橋要って言う」
彼……三橋くんの手が、私の視界に入った。
「林サン、そろそろ俺のこと好きにならない?」
カァアア、と顔が赤くなる。
「……知りません」
消え入るような声で答えるのが精一杯だった。
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