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腕で顔をガードし、思わず目をつむる。
傷とか残らなきゃいいけどなぁ。
そう思っていたが、衝撃はなかなかこなかった。
変わりに聞き覚えのある声が、耳に届く。
「お兄さん、女の人に殴りかかるなんてつまらないですよー?」
声の主は、男の腕をぎりぎりと掴んで笑顔で言い放つ。
目には、怒りの色が浮かんでいた。
「この人達、俺の連れなんでどっか行ってもらえますかね?」
「なっなんだよ!男連れかよ!!だりぃな!くそっ!」
男は、手を振り払うと二人して逃げるように去っていった。
掴まれた男の方は、腕をさすっていた。よっぽど痛かったのだろうか。
私は目の前に立つ人物を驚いた表情で見つめる。
長身で、整った顔立ち、長すぎない黒髪のメガネの男性。
いかにも女の子に人気がありそうな容姿をしている。
というか、なんでここに……?
「あ、やっぱり!!千鶴さんじゃないですか!」
菜奈は、状況が読めず私と彼を交互に見ていた。
「佐倉……?なんでこんなとこいるの?」
「最近、転勤になりまして。ていうか、千鶴さん相変わらず口悪いっすね!なんか聞き覚えのある声がしたから来てみたんですが」
「そっか、助かった。ありがとう」
「けがとかしてないですか?」
「ん、大丈夫だよ」
淡々と進む会話に、付いていけない様子の菜奈が私の手を握る。
「あ、ごめんね、菜奈」
「彩、この人誰?知り合い?」
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