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開いた部屋のドアから吹いてくるゆったりとした風を頬に感じて俺は目を開けた。
目の前に誰かの輪郭が見える。
どうやら俺の寝ているベッドの端に腰かけて、上体をこちらに向けているようだ。
そして風に揺れるカーテンの向こうの窓からの星明かりを受けて、キラキラと輝いている長い黒髪があるのに気がついた。
この綺麗な黒髪は…
「真央…姉さん」
「泣いてるの?」
そう呼び掛けた俺に真央姉さんは先程と同じ言葉をかけた。
「泣く…?」
そして気ついた。
俺の目の端には一筋の涙のあとがあった。
「ははっ…なんで涙なんか…」
涙を拭いながらそう答える。
真央姉さんの手前そう言ったが理由なんてわかっている。
あの夢。
時々夢に見る辛かった日々。
でも過去の事ごときで泣くなんて格好悪い。
別に男女差別する訳ではないが、少なからず自分を好いてくれる女の子の前で泣くのだけは特に避けたかった。
「きっと欠伸でも出たんだろ。
それより、真央姉さんはどうした
「嘘」
俺の地味に必死だった言い訳はそんな一言でかき消された。
「湊ちゃんには悪いけど…私結構前からここにいたの」
「そんな所で何を?」
「湊ちゃんの寝顔を見てたの。
結構可愛かったわ」
鏡を見なくても顔が赤くなっていくのがわかる。
「それでね、その…聞いたのよ…寝言を」
成る程。
夢にうなされていた俺の寝言を聞いていたという訳か。
…。
恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
そんな俺の頭は突然暖かい何かに包まれた。
「真央姉さん…!?」
それは今にも泣きそうな顔をした真央姉さんの腕だった。
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