5人が本棚に入れています
本棚に追加
3
僕の耳の奥で暴力的なメロディが流れた。
『俺はアナーキーだ』
そう歌っているのは、イギリスのパンクバンドだ。
僕が一生訪れることが無いであろう場所。
その場所で作られた音楽が今、僕のポケットの中に入っていることに、意味もなく興奮していた。
薄っぺらで、怠惰と不満に満ちた僕の日常からは遠く、離れた場所にある感情。
その感情がMDウォークマンから犇々と、イヤホンを通して伝わってきた。
眩しい程の激情。
太陽を直に眺めて、強い光が網膜に焼き付くあの感じ。
そして、ふと思う。
僕はどうだ。
僕の日常はどうだ。
眩しい程に輝く何かはあるだろうか。
そう考えだすと、虚無感が膨らんでいく。
……本当にくだらない。
イヤホンを耳にあてて、校門を通る時にそう、心の奥で悪態をついた。
やりたいこともなくて、適当に選んだ進路。
当然、面白いことがあるハズもなく、くだらない毎日を過ごしている。
だが、そんな毎日に慣れてしまっている自分が1番くだらなかった。
もし人生の価値が、1か0しかない絶対的な二択だったなら、このままだと僕の人生は間違いなく0に振り分けられるだろう。
なんてくだらない人生なんだろう。そうやって産み出されていく不満や鬱憤を蹴り飛ばすように、乱暴に靴を脱いだ。
そして、下駄箱に自分の下足を入れている時に後ろから肩を叩かれる。
途端に考えていたことが雲散霧消になった。
「おい、今日は何を聴いてるんだよ」
声は聞こえないが、いつものことなので、口の動きで大体言っていることは分かった。
「今日はセックス・ピストルズだったよ」
僕はイヤホンを外して答える。
すると、今まで頭の中で響いていたメロディが消えて、その代わりに不粋な朝の喧騒が耳につく。
「今日はアタリ? ハズレ?」
「アタリだったかな、セッピスを聴きたい気分だったし」
「今週は調子いいな。3日連続じゃん」
彼は、田代 剛志は変わり者だ。
クラスの連中の中で、初めて話しかけてきたのも剛志だった。
その時も、いきなり肩を叩かれ、先程と全く同じ科白を言われたのを憶えている。
最初のコメントを投稿しよう!