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それでも、彼女は僕を拒絶している訳ではなかった。僕を受け入れてくれてるように思える。
椅子に座ると、彼女が微笑んだように見えた。
「日替わりなの? それ」
首に掛けてあったイヤホンを指さして、彼女は言った。
イヤホンを示しているのではなくて、多分中身。
音楽の事を訊いているのだろう。
「えっと、これのこと?」
ポケットからMDウォークマンを取り出し、彼女に見せてみる。
彼女はこくん、と首だけを上下させた。
「これは、うん。
家を出る前に無作為に一枚、MDを選んでくるんだよ。使ってるMDは全部同じやつでさ、中身がわからないようにしてあるんだ」
「毎朝の運試しみたいな感じかな?」
「ああ、そんな感じかな」
彼女と過ごす時間は、色彩豊かな絵画のようで、僕の灰色の日常とは、全く正反対の場所にあるものだった。
こんな風に人と話したのは、初めてかもしれない。
「じゃあさ、今日はどうだったの?
アタリだった? それともハズレ?」
その質問に、どきりとした。
かちり。
と噛み合うような音が、頭の隅で聞こえた気がした。
一つの対になっている歯車が噛み合い、回りだした時のような感覚だ。
「今日は……、アタリかな。うん」
僕は勿体ぶるように、ゆっくりと言う。
そう言うと、何故か彼女が嬉しそうに笑った。
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