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どこの学校にも七不思議のような怪談話はあるものだ。
そして、その類いの話の舞台は十中八九、誰もいなくなった、夜の校舎である。
窓ガラスから射し込む闇が至るところに影を落とし、コンクリートで固められている無機質な校舎を不気味に、肉感的に見せている。
今にもコンクリートの壁が両側から迫ってきて、僕らを押し潰してしまいそうな錯覚に襲われる。
或いは次の柱の陰に、青ざめて、蝋のような肌になった血だらけの女子生徒が、僕らが間抜けに通るのを待っているかもしれない。
「やっぱり、夜の学校ってなんか不気味だね」
隣を歩いている彼女が、顔を曇らせて言う。
彼女の肌には生気があるし、血のかよっている徴のほのかな朱が映えている。
「こういう時に限って、怖い話とか思い出しちゃうんだよね。
ラブクラフトの話とかスティーブン・キングの話とか」
弾んだ声からは怯えや恐怖といった感情を感じなかった。
彼女はこの時間を、この場所の雰囲気を楽しんでいるのではないだろうか。
僕も確かに楽しくは思えているが、早く学校の外に出たいという気持のほうが強かった。
「俺は学校の怪談とか思い出しちゃうな」
「テケテケとか、動く人体模型とか?」
「そうそう」
「ああ、でもウチの学校って人体模型はなかったよね」
「そういえば、確かに」
存在しない物に怯えるというのは実に滑稽なことだ。幽霊の正体見たり、とは古人は良く言ったものだ。
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