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校舎の外に出ると、粘度の高い夏の夜闇が辺りを満たしていた。
この季節には珍しいくらいに、夜空は透き通っている。
デネブ、ベガ、アルタイル。
そのどれもが、ごうごうと命を燃やしているように輝いていた。
「ねえ、見て見て。」
僕の少し前を歩いている彼女が、空を見ながら言う。
足取りは軽く、彼女は今にでもどこかへ飛び立ってしまいそうにみえる。
「空がすごい綺麗。ほら、月が真っ白」
そこには確かに、真っ白な月がぽっかりと浮かんでいた。
「ああ、本当だ」
僕が相変わらずの素っ気なさで返す。
もっと飾り立てるような美辞麗句を並べたほうがいいのかもしれない。
けれど生まれ持った性分で、こんな返事しか返せないのが悔しい。
彼女は空を見たままだ。
「本当に、5億もの鈴が一斉になっているみたい」
僕はそう聞いて、一瞬何のことだか考えがつかなかった。
そう、これはたしか『星の王子様』だ。
王子様が自分の星に帰る際に遺していった言葉だ。
夜空の星星が、優しく笑いかけてくれる魔法。
「星の王子様だよね? サンテグジュペリだっけ」
自信があまり無かったのだけど、彼女が笑顔で振り向いたので正確だと確信をした。
「そうだよ。サンテグジュペリ」
彼女の声はどこか弾んでいる。
彼女は今にでも、月の明かりを頼りに1・2・3、1・2・3とワルツを踊りだしそうだ。
「私ね、思うんだ。
サンテグジュペリは今もきっと、どこかの空を飛び続けてるって。
もしかしたら王子様の星に行ったのかもって」
サンテグジュペリは第二次世界大戦の最中、偵察任務に飛び立ったまま、行方不明になってしまったハズだ。
僕は『星の王子様』を読み終わった後にその話を知って、なんとも言えないような気持ちになったことを思い出した。
悲しいとは少しだけベクトルが違う感情だ。
消えてしまった者への気持。
喪失感とでも言うべきなのかもしれない。
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