5人が本棚に入れています
本棚に追加
潤んだ大きな瞳が、しっかりと僕を捉えている。
そっと笑うと、ゆっくりと近づいてきた。
僕の頬に、柔らかくて湿った感触。
途端に背骨にそって、頭の先から、体がじんと痺れた。
光香の長めの髪。
その毛先が悪戯に、僕の首筋を擽る。
その度に体中の毛が、ざわざわと逆立った。
砂の上にしゃがみこんでいて、ただでさえバランスが悪い。
その上に、光香の突然の行動。
僕はバランスを崩して砂の上に、仰向けになりながら寝転ぶ。
光香は僕を追いかけるように、僕の上に覆い被さった。
僕の顔のすぐ上に、妖艶な印象さえ受ける光香の顔があった。
端から見たら、とんでもない光景だろう。
小学校の校庭にある砂場で、若い男女が重なりあっているのだから。
鼓動が早まっていくのとは裏腹に、思考は段々とすっきりしていった。
「ロミオとジュリエットのワンシーンでね、ロミオがジュリエットに対する想いを月に誓おうとするの、
そうしたらジュリエットがこう言うんだ」
先程よりも湿った声で、撫でるように光香は言った。
襟の隙間から垣間見える彼女の胸のシルエットが、僕の頭の奥を、じりじりと焦がしていく。
「なんて?」
「気まぐれな月に誓うのなんてやめて、って。
ねぇ、ハルくんはどう思う?」
その時、光香は笑った。
静かに笑った。
何故だかその笑みは、いつものものとは、根本的に違うものだった気がする。
暗く、冷たい、吸い込まれるような漆黒の笑みに思えた。
僕はその時、彼女の身体の輪郭に、妖艶な笑みに、ただ見とれていた。
「えっと、どう思うって?」
「もしジュリエットが、月に永遠の世界があるって知っていたら、なんて言うのかな。
喜ぶのかな? それとも……」
僕の唇に、温かな、湿っぽい物があてられる。
身体の上に、柔らかくて心地よい重さを感じる。
彼女の肢体の柔らかさが、僕の考える力を奪っていく。僕の頭の奥が、このままでは焼き切れてしまう。
不思議と、それでもいいかな、と思えた。
そのままで僕達は、服が汚れるのもお構い無しに、砂混じりのキスをした。
最初のコメントを投稿しよう!