シロイツキ

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ひどく気持ちが良かった。 ふわふわと浮かんでいるような気分になる。 口の中に感じる砂の食感でさえ、不思議と不快には思わなかった。 火照った彼女の頬。 柔らかな白い肩の向こう側には、白い月の鏡が僕らを映そうとしているようだった。 彼女の髪が風に絡まり、そよそよと空間を弄ぶ。 ふと、光香が何故、僕をこの場所に呼び出したのかが解った気がした。 もっともだが、本当の意味での答えは光香しか解らないのだから、僕の考えは憶測の域を出れないのだけれど。 そもそも物事を本当の意味で理解することなんて、極稀だ。 大体の人間が大体のことを、大体で理解して世界は成り立っている。 だから、僕らは相手の考えを組み取ろうとする時、自分のあやふやな考えを信じなければならない。 僕が信じたあやふやな考え。 そう、今日は7月20日。 30年目の、月の祝祭日。 「もしかして、嫌だった?」 弱々しい声で、光香が言った。 鍵を無くして家に入れなくなってしまった子供みたいな表情をしている。 眉根が下がり、泣きそうに見える。 即座に、そんなことはない、と言いたかった。 だけど、その気持ちを言葉にした所で、何パーセントの気持ちが伝わるのだろう。 言葉は不便だ。 気持ちを伝えられない僕らは不憫だ。 例えば、おでことおでこをくっつけるだけで、僕の気持ちがそのまま伝われば、どれだけ良いことだろう。 僕は起き上がった。 僕の上に覆い被さっていた光香が、小さい悲鳴をあげて砂場に寝転がる。 僕と光香の位置が入れ替わる。 光香の上に僕が覆い被さる形になった。 「ハルくん?」 僕は先程の光香と、全く同じことをした。 頭の中で、星が散る。 頭の奥が焼き切れたようだ。 すると暴力的で、破壊的で、眩しい程に優しく、切ないメロディがBGMのように耳の奥で響いてきた。 それは、4年ほど前に解散してしまったパンク・バンドの、2分25秒しかない短い曲だ。 誰もがポケットの中に、孤独を隠し持っている。 そのワンフレーズだけが、頭の中でリフレインしていた。
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