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「意外って、どういう意味さ」
「あんまり深い意味はないよ。
私の勝手な偏見かな」
ふうん。と言いはしたが、小夜が何故そう感じたのかは、やっぱり全然わからなかった。
もしかしたら、小夜だってわからないのかもしれない。
お通しの一夜干しがすぐに運ばれてくる。
運んできたのはさっきの女の子だ。
ショートヘアーの、活発そうな女の子。
きっと誰からも好かれるようなタイプだろう。
女の子が店の奥に戻っていく姿を眺めていたら、テーブルの下で小夜に足を蹴られてしまった。
「ちょっと、痛いって」
驚いて、苦笑いを浮かべた情けない表情だと思う。
脛の当たりがジンジンと熱い。
「何まじまじと見てるのよ」
小夜だって本気でやっている訳ではなくて、
冗談めいて目を細めている。
「あの娘、そんなに晴彦のタイプだったのかしら」
「そういう訳じゃないよ」
「あら? じゃあなんでエロ親父みたいな目でまじまじと見てたのよ」
小夜の口の端がだんだんと持ち上がってくる。
僕をからかうのが楽しいのか、どこか悦んでいるようにも見える。
「……ほら、なんかいいじゃん。
あの娘って多分女子大生でしょ。
いいじゃん、女子大生って」
「ああ、エロ親父みたいなじゃなくて、正真のエロ親父だったわね」
「わからないかな、女子大生とかはいつまでたってもオレたち男子諸君の夢なんだよ、きっと」
そんな話をしてるせいなのか、そうじゃないのか。
わかりはしないが、ビールが運ばれてきた。
キンキンに冷えているのか、ジョッキは結露の汗をかいている。
ビールを運んできたのは中年の男性だった。
小夜の意地悪な笑みが見えて、可笑しく思えて僕も笑っていた。
「残念だったね。
あの娘じゃなくて」
「絶対、話を聞いてたよな」
「そうかもね」
笑いながら、小夜の桜色の唇がジョッキに触れる。
そして勢い良く、喉をごくごくと鳴らして、黄金色の液体を口の中へ落としている。
彼女は酒に強い体質なので、一度呑み始めると、どんどんと呑む。
弱い僕にはとてもついていけないのだ。
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