シロイツキ

9/16
前へ
/16ページ
次へ
酒も美味しかったし、料理も美味しかった。 僕達はとても盛り上がった。 僕はビールと2杯のチューハイを呑んだだけで、もう酔いが回ってきている。 もうそろそろ止めないと、僕は帰れなくなってしまうだろう。 「情けないなあ、晴彦。 もう顔が赤いじゃない」 小夜はビールを2杯、チューハイを4杯。僕よりも多く呑んでいるのに、全然平気そうで、背筋がピンと伸びている。 「昔から酒には弱かったからさ、遺伝だよ遺伝。 ウチの家系は皆、酒が弱いし」 「やっぱり遺伝するものなのかな。 私の両親はお酒に強いもん」 それからも二人の会話が途切れることはなくて、学生時代の話なんかをしていた。 小夜が中学、高校とバレーボール部だったという話は意外で、面白かった。 なんだか小夜に運動部は似合わないイメージがあったからだろう。 「晴彦の高校時代はどうだったの? 彼女とかいた?」 小夜が何とはなしに言った言葉が僕の耳の奥で揺れた。 その途端、僕の首筋を生暖かい、湿った風が撫でた気がした。 この席は出入口から離れている為、扉が開いたからといって風が入ってくることはないのに。 隣の席の人達があげる笑い声も聞こえなくなって、光香の髪の匂いが、声が鮮明に僕の中で蘇ってきた。 「晴彦、どうしたの?」 小夜の声が僕を記憶の流れの中から呼び戻した。 溢れだしたものが、ふっと消えていく。 「ん、ああ、ごめん。 寂しい高校時代でさ、あんまり良い思い出なくて」 何かを振り払うために、僕は冗談混じりに言う。 その何かは、僕の胸の奥の方をしっかりと、痛いくらいに掴んでいて離そうとはしなかった。 「それは嘘でしょ? さては晴彦、高校時代は遊び人だったとか?」 これは嘘をついたことになるのだろうか。 少し違う気がする。 「いや、本当にモテなかったよ、ネクラだったし。 毎日イヤホン耳にして音楽ばっかり聴いてたから」 これだって別に嘘ではない。 光香に出逢うまでの僕は実際にネクラだった。 友達は今でも少ないかもしれない。 「意外だな。 今の晴彦じゃ考えられない。 ねぇねぇ、どんな学校生活だった?」 小夜はほろ酔い気味に、僕に詰め寄った。 僕の学生時代に興味を持ったみたいだ。 「別に面白い話もないよ?」 「いいから、聞かせてよ」 隣の席の人達が大きな声で笑っていた。 小夜の眠そうな印象をうける、潤んだ瞳が僕を真っ直ぐに捉えていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加