シロイツキ

1/16
前へ
/16ページ
次へ

シロイツキ

その昔、僕らが生まれてくる前のこと。 ヒトという種の夢が、重力の鎖を断ち切り、星の大海へと飛んだ。 無限へと続く漆黒。 星達が爛々と、墜ちてくるような光を放つ海。 その時、初めて地球という揺り籠から外に出た男はこう言ったそうだ。 地球は青かった。 しかし、どこを探しても神はいなかった。 それは、彼女が教えてくれた言葉だ。 あの頃の僕には、他のどんな聖人君子が言った言葉よりも、価値があるように聴こえた。 世界中に溢れている、どんな教えを説く言葉より、ただ、彼女が教えてくれる言葉だけで、僕には十分だった。 そう、手の中に握られているモノが、硝子玉だろうと宝石だろうと、どうだってよかったんだ。 ポケットの中に隠していた、穴が空くほどに詰め込んでいたモノが、なんであろうと、僕らには関係なかった。 あの頃の僕は、確かにそう思っていた。 あの頃の僕らは、確かにそう感じていた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加