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暗闇に、うっすらと何かが光った。それは曲線を描くように、白く、鈍く光っている。
彼女はその奥を見たくなかった。見たら、引き返せない。
見たくない。
見せないで・・・・!
光は、彼女の思いを嘲笑うかの様に接近してくる。
近づく、近づく、近づく、近づく、近づく、近づく・・・・。
彼女は絶叫した。
あるマンションの一室。そこで、霧崎優姫は目覚めた。
うっすらと、目を開ける。辺りは薄暗く、ひんやりとした空気が漂っていた。
「・・・・・・またか」 そう呟き、自分の額に触れる。じっとりと汗ばんでいて、手のひらが濡れた。優姫は溜め息をつき、今まで横になっていたベッドから降りて、洗面所に向かった。
洗面所の蛇口をひねる。冷たい水を手に受け止めて、顔にかけた。
滴がポタポタと落ち、優姫は顔をゆっくり上げ、鏡を見た。
肩まである黒髪で、やつれた表情をした女の子が写っている。
(・・・情けない顔)
優姫は自嘲気味に笑うと、側にかけてあるタオルを手にし、顔を拭く。 一息ついて、優姫は呟いた。
「いつまで、続くんだろう・・・・」
朝日が昇る頃、優姫は身支度を整えて、大学のテキストやノートを鞄に詰め込んだ。
支度が済むと、優姫は キッチンのダイニングテーブルに用意した、朝食を口にする。皿を空にすると、サッと片付けて、学校へ向かった。
優姫は自宅のマンションから、歩いて30分かかる場所にある大学に通っている。以前はバスを利用していたが、歩いて行く方が運動になるし、お金もかからない。
こちらの方法が良い。そう思い、優姫は早めに家を出で、人もまばらな道を、徒歩で大学へ赴くのであった。
「おはよー❗優姫」
1限目の講義を終えた優姫に、ある少女が駆け寄った。彼女の名前は、宮川沙織。ボブショートの似合うコで、活発的な性格をしている。優姫の良き友人でもある。
「おはよ。沙織。1限目は、何だったの?」
「哲学論。朝からおじいちゃん先生の講義はツラいよ~💧」
“おじいちゃん先生”とは、今年60になる、哲学論の教授だ。その、おっとりとした口調で講義を行う事から、名付けられた通称なのである。
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