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画廊からの帰り。
細い雨がフロントガラスを濡らしていた。
信号待ちの交差点で僕は窓の外に見える桜の木をみて、小さなため息をついた。
赤みを帯びた蕾は、数日つづくらしいこの雨が上がる頃には開花するだろうか?
十八の誕生日。
蒸し暑い八月のその日、僕は両親を捨てた。
そして失った何かを埋めるように僕は偶々よってきた痩せっぽちの少女を猫と称して飼い始めたのだ。
「神山 ニヤ」……彼女に会ったのはちょうど僕が二十歳の時だった、紆余曲折を経て、晴れて僕たちは恋人同士になった、気がつけば、それから三年近い月日がたとうとしていた。
青信号に変わったことに気がつかず、いつまでも発信しない僕の車にじれて、後続車が喧しくクラクションを鳴らした。
僕は慌ててアクセルを踏み、後ろへと流れていく桜の木を横目に数ヶ月前のことに思いを馳せていた。
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