黒翼

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目を真っ赤にした髪の毛がボサボサな男が足を掴んでいる。 その男にも黒い翼が生えている。 「そっちに行くな。こっちに来い。」 男は言う。 「いいえ、聞いてはダメよ。一緒に空を昇りましょう。」 天使は言う。 急に上からとてつもない力で引っ張られるのを感じた。 それに負けじと下からも引っ張られる。 ギチギチ ギチギチ 嫌な音が公園に響く。 今まで感じたことのないとてつもない痛みに竜は意識を失いそうになった。 自分は「死」という運命に取り付かれてしまったのだろうか? 「竜!」 公園に母の声が響く。 公園の入口に母が立っている。 「晩御飯できたから早く帰るわよ。」 と母が笑顔で僕に言う。 周りを見渡してみると、 さっきまでいた天使と男は消えていた。 痛みも不思議なことに消えていた。 さっきまでの恐怖からか、竜は全力で母のもとに駆けていた。 「お母さん! 早く帰ろう!」 と言い、竜は母の手を握った。 「どうしたの?」 と聞かれるが、「何もない」と答えた。 「フフフフ、今日は竜の好きなカレーよ。 竜の好きなトマトも入れたからね。」 「ひどい! 僕がトマト嫌いなの知ってるくせに。」 さっきまでのことをもう忘れたのか竜は笑顔になっていた。 夕日を背にして竜は母の手を握り家を目指した。 ・・・・・・・その母の背に、黒い翼が生えていたのを竜が知ることはもちろん ない
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