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そのうち、ぼうっとした川の輝きが、腰の曲がった老人やうら若い男女の影を映しだした。
ここにいろ、と言い置いて、死者へ向かう師匠の背中を、肇は大人しく見送った。
いつもは穏やかな師匠も、この時ばかりは気迫がこもり、少し近寄りがたい。
踏み固められた地面は、死者へ迫る師匠の足音を吸収し、辺りは奇妙な静寂に包まれている。
そして肇は、刃が振り下ろされる音を聞いた。
川から溢れる白い光が、きら、と反射する。
肇は、不鮮明な影絵のような、その様子を憮然と眺めていた。
おれだって出来るのに……
スイは、肇に、いまだに木刀しか握らせない。
死者を斬る様子も、遠目にしか見せない。
肇は何度か不満を言ったことがある。
しかし、その度に師匠は、先へ延ばすにこした事はない、と優しく言うのだ。
肇には全く理解出来なかった。
最近肇は、自分が子供扱いされる事が、無性に腹立たしいのだった。
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