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昔。まだ妖精や魔法やドラゴンが、人間の暮らしの中に見え隠れしていた頃。
一匹の小さなドラゴンが、深い深い樹海の中にある高い高い山の頂に住んでいた。
まだまだ幼いドラゴンは、銀のスプーンのように輝く鱗と長くスラリとした尾がとても自慢だった。
他の年老いたドラゴンのように……とは言っても、他のドラゴンの事など知る由もなかったが……。立派な角は生えてはおらず、竜劍と呼ばれる背中の飾り棘も、細い小さな短剣ほどしかなかった。
ただ、時折金の翼を開いては
「もし、自分が飛べるようになったなら……あの緑の向こうに、なにがあるのかこの目で確かめるんだ。」
と、精悍に空を舞う自分の勇姿を、透き通ったペリドットのような瞳で夢見ていた。
彼の住処は、ゴツゴツの岩肌と深い谷に囲まれた高い山の天辺にある、天にも届くかと思われるほどの大木の洞の中だ。
ドラゴンの眼下には、村や町など影もなく。地平線の向こうまで見渡す限りの深い緑と、緑を割って走る河の流れが広がっていた。
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