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雲の切れ間から、広い樹海の果てが見えた。
段々と木々の間がまばらに広がり。薄緑のレースを敷き詰めたやうな草原に、幾頭かの野を駆け回る馬の群れが見えた。
樹海から流れる細い水の流れは、やがて大河となり……枝分かれしながら地平線に消えていくのが、手に取るようだ。
そしてその向こうに、自分の住処よりも低い山々が連なっているのが見えた。
「あの山の向こうには、なにがあるのだろう?」
ドラゴンはそちらを向いて、羽の後ろに風を逃がして前進した。
でも風は彼の行方を遮るように、体を住処のある山頂へと引き戻した。
幾度となく試みたが、仕舞には。羽に力を入れてグーンと上昇したり、風が止むと錐揉みでクルクル下降したり羽ばたくのを止めて風に乗ったり……すっかりと目的を忘れて風と遊ぶこととなった。
ある暖かな春の日。初老の男が、崖を登り住処へとやってきた。
男は彼の鱗のようなピカピカの鎧を身に付け、手に槍を握り
……顔に細かな皺を刻んで、鬼のような形相で何かを喚きたてると「えいやーっ!」と声を上げて、ドラゴンの喉元に何度も突進してきた。
男のあまりの煩さに……尾の先でヒョイと胸を突くと、鎧は紙のように脆く崩れて、男は悲鳴を上げながら崖下へと落ちて行った。
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