37人が本棚に入れています
本棚に追加
森の木々は、ざわめき。黒い鳥が煙のように沸き立った。
樹海を守りし狼の長は、彼の前に現れてこう言った。
「若きドラゴンよ!お前はその羽で……その尾で、災いの種を呼び入れた!
災いの種はやがて、蔓を伸ばし……訪れるであろう。
我等は、我等の縄張りを守る!
お前は……己自身の力で、お前の信じるモノを守るのだ。」
自分の信じるモノ?自分が守るモノ?
それは何より。自分の命であると、ドラゴンは洞に入り肩をすくめた。
それからと言うもの。ドラゴンを仕留めて名を上げようとする男達が、深い樹海を掻き分け谷を下り……崖を登り、剣や斧を振りかざしてやってきた。
多くの者は道に迷い、狼達の餌食となり事切れた。
やがてその屍は……道標のように彼の住む山へと続き。谷は、多くの兵士の屍で埋め尽くされていった。
樹海は荒れ、死臭が漂い。ドラゴンの心も、暗く閉ざされてしまった。
吐き出す息は氷よりも冷たく、近寄る者を芯まで凍らせた。
鱗はまだ銀の輝きを失ってはいなかったが……長い尾の先には、所々赤い血の染みが付いていた。
今では風と遊ぶ事もせずに、洞の中から樹海の向こう側を睨んでいるばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!