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しばらくして、フィルムが残り少なくなった頃。
美紗は父と母を見ていた。
桜の下で凛と立つ母は、とても綺麗であった。
父のカメラの中で、母が笑ってくれることを心から願っていた。
『良介君、車に戻ろう。カッコイイとこを撮ってあげる。お父さん、車の鍵を貸して。』
そうして、二人は先に車へと戻って行った。
手つないだ父と母が戻ろうとした時、美紗は助手席でカメラを構えていた。
『ちゃんとハンドル握って!運転してる様なカッコつけてよ。』
良介は、のせられ易い性質である。
ハンドルを握り、見よう見まねで・・・サイドブレーキに手をかけた。
もともと軽くかけてあったサイドブレーキは外れ、車はゆっくりと、坂道を下り始めた。
『美紗!!』
保彦が多恵の手を放して駆けて行く。
尋常でない突然の大声と、振りほどかれた手に、多恵は分けもわからず、その場に座りこんだ。
ほんの数秒のことであった。
懸命に走る保彦の先で、二人の乗った車は、対向車線を越えた。
『美紗ちゃん!!』
良介が叫んだ瞬間、車は反対側の道路脇にある桜の木にぶつかって止まった。
無数の花びらが舞い散る。
車に辿りついた保彦が助手席の窓から覗き込む。
『大丈夫か?怪我はないか?』
『お・・・お父さん・・・。私は大丈夫。』
美紗をかばう様にして、良介の体がかぶさっていた。
『良介君、大丈夫か?』
『わっ!』
慌てて美紗からはなれる良介。
『だ、大丈夫じゃき。ご、ごめんなさい。』
『ええから、痛いところはない?ちょっと待っちょれ。』
保彦は運転席側へと回り、ドアを空け、良介の様子を伺う。
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