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【5】それぞれの思い
桜の花が咲き誇る春の日。
今日で、美紗は中学校を卒業する。
あの悲劇の日から、美紗と多恵、そして良介の日常は、すっかり変わってしまっていた。
~良介~
人の運命が、どこから決まっているのかは分からない。
しかし、自分が誤って引いたサイドブレーキ。
彼は、それが悲劇の始まりだと思っていた。
同じ中学にいながら、その3年間、彼が美紗に近づくことは一度もなかったのである。
『美紗ちゃん、元気出して!僕がついているから。』
そう言って、彼女のそばへ行きたいと何度も思った。
笑顔を無くした彼女を助けてあげたいとも思った。
しかし、彼女の幸せを奪ったのは自分である。
他の誰であってもいいが、自分には彼女を守る資格はない。
彼女もきっと、自分を恨んでいるに違いない。
父を死へと導いた自分を許すはずがない。
心の中では、優しい彼女が、本当はそんなことは思っていない。
それも分かっている気はしていた。
しかし、彼は自ら、自分を責める道を選んだのである。
その思いは、いつか訪れる運命の日まで、ずっと彼の小さな心を苦しめ続けたのである。
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