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病院へ運ばれた時の美紗は完全に意識がなく重態であった。
懸命の救命処置が何時間も行われ、その結果、何とか一命を取り留めたのである。
そして、3日間眠り続けた後、目を覚ました。
(ここは?私はいったい・・・)
『美紗ちゃん。美紗ちゃん。』
ぼんやりとした視界の中に、一人の影が、次第に鮮明に現れて来た。
『・・・良介・・・君?』
ゆっくり起き上がる美紗。
『美紗ちゃん!!良かった!良かった!』
良介は、握っていた美紗の手を額にあてて、涙をこぼしていた。
美紗が帰ってきた夜。
良介は、役場の仕事帰りに、誰もいないはずの家に明かりが点いていることに気付いた。
美紗が帰って来た!
無我夢中でその明かりへと走った。
そこで、床に崩れ落ちた彼女と再会したのである。
この3日間、彼は仕事を休み、彼女の手を、ずっと握り続けていたのであった。
『良介君。あなたが助けてくれたの。何で助けたの・・・何で、死なせてくれなかったの・・・私は、お母さんのところへ行きたかったのに。』
「パン!!」
良介の平手が、美紗の頬を打った。
『バカやろう!! 死んじゃあいかんぜよ! お母さんはそんなことを望みゃあせん!』
美紗は、言葉を失って、かつての恋人の顔を見つめた。
良介は、美紗を抱きしめた。
『死んじゃあいかん。・・・死なせたりせん! 僕が、美紗ちゃんを守る! もう、絶対に放さん! もう、どこっちゃあ行くな!』
頬が、ジンジンと痛んだ。
それよりも、胸の痛みの方が大きかった。
その痛みは、悲しみや苦しみとは違って、美紗に大きな安堵を感じさせていた。
美紗も、良介を抱きしめていた。
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