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【2】多恵と保彦
美紗の父は、代々続く写真屋の長男であった。
父と母が知り合ったのは、駆け出しの頃に行ったモデル撮影会でのこと。
撮影会が終わった後、彼はそのモデルに声をかけたのであった。
『はい、これまで!お疲れ様でした。』
その機を逃さず、彼はモデルに話かけた。
『あの・・・、僕は片岡保彦と言うがやけど、今日は、モデルをありがとう。』
『いえ、こちらこそ。こんな私なんかで、良かったかしら。』
彼女は、由緒正しい家の一人娘。
その美貌とスタイルの良さから、時々頼まれて、絵や写真のモデルをしていた。
『なに言うちゅう!あなたを綺麗に撮れないカメラなんぞ、どこにもないぜよ。腕なんぞ必要ないき、つまらんぐらいや。』
『はぁ・・・申し訳ございません。満足頂けなかったでしょうか?』
『あ、いや、そうじゃないき!十分満足・・・あ、いや・・・こりゃまいったぜよ。』
彼女の名は篠原多恵。
人一倍感の鋭かった彼女は、半分冗談で言ったのだが、彼の慌てぶりに、わざと追い討ちをかけた。
『つまらないことに、お時間とフィルムを使わせてしまいましたね。御代は幾らでしょうか?』
片岡は、自分の失言を後悔する暇もなく、焦った。
『アハ。ほんの冗談です。片岡さん。ごめんなさい。あんまり真面目に反応されるので、つい。』
『えっ!そうやったか、良かったぁ。はぁ~。勘弁しちゃってや。』
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