【13】帰郷~絆~

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【13】帰郷~絆~

良介と彼女は、玄関の前に立った。 『ずいぶんと年期の入った家ね。え~と・・・ポストの裏ね。あった、あったわ。』 彼女は、鍵を見つけ、玄関の引き戸を開けた。 カビ臭い匂いがした。 『うわ~。まるで何かの博物館みたいね。』 表向きは明るく話しているが、彼女の鼓動は激しく鳴っていた。 『こっちへ来てみぃや。』 良介が彼女を呼んだ。 『これが、あなたのお母さんぜよ』 彼女は壁の卒業写真に顔を近付けた。 『これが…私のお母さん。』 彼女は、あの雪の日に、孤児院の前に捨てられた美紗の子であった。 『何だか…自分を見ているみたい。おじさんが私を見て驚いたのが、よく分かったわ。ハハ。確かに、こりゃ誰がどう見ても親子だね。ほんとに似てる。…お母…さん。』 彼女の頬を涙が流れていた。 辛く寂しかった子供の頃。 自分を捨てた母を恨んだこともあった。 もし生きて会えたら、気がすむまで殴ってやると思っていた。 しかし、その想いとおなじくらい、母に会いたかった。 母の胸に抱きしめられたいと思っていた。 その想いが、彼女の唯一の夢であった。 もう、母はいない…。 彼女が今まで描いていた夢は、本当に終わってしまったのである。
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