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~東京~ 5日前。
美紗の娘である彼女は、東京で芸能関係の仕事をしていた。
ある日、その会社の社長宛に小包が送られて来たのである。
差出人は、山口良介。
添えられていた手紙を読んだ。
「はじめまして。私は、あなたのお母さんと共に生きてきた者です。」
彼女の胸が、『ズキン!』と響いた。
(私の…お母さん?)
良介と美紗は、互いに深く愛し合ってはいたが、結婚はしなかった。
美紗は、我が子の父である片岡修二を、忘れなかったのである。
「残念ながら、彼女はもうこの世にはいません。先日、病気で逝ってしまいました。あなたの事を、いつも、そして最後まで想っていました。これは、自分が死んだら、あなたに送る様にと言っていたものです。『かたみ』として貰ってあげてください。」
彼女は、小包を開けた。
それは、母、美紗のカメラであった。
傷だらけではあったが、隅々まで手入れされていた。
彼女はそのカメラに、何とも言えない愛情を感じた。
分けも分からず涙が流れた。
箱の中には、もうひとつ手紙があった。
「私の名前は、片岡美紗といいます。
四国の山の中、ちょうど高知県と愛媛県の県境辺りに、私の生まれた家はあります………………家の鍵はいつも玄関横の郵便受の裏にあります。
私は、そこで中学まで母に育てられました。
あなたは、きっと私の事を恨んでいることでしょう。
私は赤ん坊のあなたを捨ててしまいました。
ひどい母親です。
こうして、生きていることが恥ずかしくも思います。
でも、私は一度死んで、ある人に助けられたのです。
生きて二度とあなたに会うことはありません。
私には、そんな資格はないのです。」
彼女は涙で文字が見えなくなりながらも、ゆっくり、弱々しい一文字一文字を読んだ。
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