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「あなたのことは、テレビで知りました。
何気なく見ていたテレビに、真っ黒で、真っ直ぐな瞳を見つけてしまったのです。
あなたの目は、あなたの父親とそっくりでした。
そして、手の甲にあるアザを見た時に、私の子だと確信したのです。」
彼女は自分の手の甲を見た。
ハート型のアザ。
彼女は、そのアザが気に入っていた。
そして、仕事でテレビに出た時は、わざとカメラに映る様にしていたのである。
(母が生きていたら、このアザに気が付いてくれるかも知れない。)
そう願っていた。
「それから、ずっとあなたの事を見守っていました。
あなたに許して貰えるとは思いません。
ただ、私とあなたの父は、本当にあなたを愛していました。
それだけは信じて欲しくて、この手紙をしたためました。
雪の日に、最後に抱いたあなたの温もりは、一生忘れません。」
胸の中で、繰り返し問いかけてきた答えが、今、はっきり分かった。
(私は…愛されていた。)
(邪魔で捨てられたんじゃなくて、愛されて捨てられたんだ。)
(私は、母の胸に抱き締められていたんだ。)
それで十分であった。
「このカメラは、私の父、あなたの祖父から貰ったものです。悲しい別れもありましたが、このカメラは、私と私の母を繋ぎ止めていてくれました。
あなたに持っていて欲しいのです。
私たちの絆の証として…」
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