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【14】エピローグ
母の想いを知った彼女は、自分の生い立ちを知る社長に想い打ち明けた。
『行っておいで。お母さんはきっと待ってるよ。我が子を好き好んで捨てる親なんていないよ。きっとそれが一番あなたの幸せの為だと思ってしたこと。一番辛かったのはお母さんだよ。』
そうして彼女は、母が生きた家を尋ねることを決心したのである。
~多恵と美紗の家~
『なんで…なんでもっと早く教えてくれなかったの?お母さん。』
彼女は写真の母に語りかけた。
『恨んでなんかいないよ。私は、ずっとお母さんに会いたかったんだよ。死んでからじゃ、もう会えないじゃん!!』
大声で泣いた。
悔しくて、切なくて、大声で泣いた。
そして、隣のもう一枚の写真に目をやった。
『おじさん。これは私の…』
『あぁ、それはあなたのおばあちゃんぜよ。』
桜の下で、優しい笑顔で立つ多恵の姿がそこにあった。
『美紗ちゃんは、椅子に座って、よくこの写真を眺めちょったぜよ。』
壁の前には椅子が二つ並んでいた。
彼女は思い付いたように、バッグの中から一枚の写真を取り出した。
『画鋲か何かない?』
良介は奥から画鋲を数個持って来た。
彼女は、その写真を母の隣に並べて貼った。
『これで、私もこの家の仲間入りだね。お母さん。』
美紗が、我が子に送ったカメラにはフィルムが入っていた。
たった一枚の写真。
それは、我が子との最後の日に、美紗が撮った写真だったのである。
『なんだか…こうして見ると、三人の内の誰かの成長を並べちょるみたいじゃき。』
『失礼ね!私はこんなダサイ制服も着なかったし、歳をとっても、絶対あんなに老けたりしませんよだ。ハハ。』
『笑うと余計に似ちょるがやき、まっことかなわんぜよ。ハハハ。』
『お母さん。教えてくれてありがとう。私は幸せだよ。またいつか来るからね。』
そう言って、彼女はその家を後にした。
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