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『片岡さんは、なぜお写真を?』
『はい。カメラは正直なんです。その人や景色、それぞれの一瞬の感情や情景を、そのまま写し出します。そこに、人の心や、自然の美しさが見えるのです。』
この真っ直ぐな彼の感性に、多恵は惹かれて行った。
その後彼は、持っていたフォトブックを広げ、それぞれの写真に写し込んだ思いを、一生懸命に語った。
彼女は、それを一つ一つうなづきながら、優しく微笑んで聞いていた。
一通り『解説』が終わった頃、迎えの車がやって来た。
『片岡さん。大変楽しいお話をありがとうございました。あなたの写真をしっかり見ることは出来ませんが、温かなぬくもりが伝わってきました。どうかこれからも、頑張ってください。』
引き止める言葉を選んでる彼をよそに、車から降りて来た運転手が、彼女の手を取って、車へと案内して行く。
『お嬢様、ここに段差がありますので、お気をつけてくださいませ。』
(・・・?)
嫌に丁寧な引率振りを不思議に見ていた彼は、そこでやっと気が付いた。
彼女は、生まれつき目が見えなかった。
その境遇で育った彼女は、人の言葉やその抑揚から、その人の性格や真実を感じ取ることができたのである。
実際、彼の話し方やその内容から、その写真をまるで実物を見ているかの様に理解していた。
この時をきっかけに、二人は交際を始めたのである。
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