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保彦と多恵は、結婚を誓い合っていたが、一つ大きな問題があった。
保彦の父は、以前、篠原家の依頼による大きな仕事を請け負った。しかし、同業の妬みから、フィルムの入ったバッグを盗まれてしまったのである。
このことで大きな損害を被った多恵の父、篠原源蔵は怒り、保彦の父の仕事をけなした。
有力者の一言は、またたく間に小さな写真屋を町の片隅へと追いやったのである。
このことを恨んだ保彦の父が、篠原家との縁談を承諾するはずもなく、また、多恵の父とて同じであった。
二人は悩んだ末、駆け落ちの形で家を飛び出し、四国の山奥の小さな町に住んだのである。
その家は、多恵の弟(篠原信二)がこっそり探してくれたものであり、保彦は持ってきたカメラで写真屋を始めたのであった。
田舎町の写真屋の生活は、けして楽なものではなかったが、愛しあった二人には、十分幸せなひとときであった。
しかしながら、「盲目の年上美人と若いカメラマン」である。
この組み合わせは、退屈な田舎町では、怪しい噂の種に持ってこいであった。
暫くはうまくいかない生活が続いていたが、二人の持ち前の性格の良さは、次第に町の人々に理解され、仕事も少しずつ増えて行ったのである。
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