【2】多恵と保彦

3/4
136人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
保彦と多恵は、結婚を誓い合っていたが、一つ大きな問題があった。 保彦の父は、以前、篠原家の依頼による大きな仕事を請け負った。しかし、同業の妬みから、フィルムの入ったバッグを盗まれてしまったのである。 このことで大きな損害を被った多恵の父、篠原源蔵は怒り、保彦の父の仕事をけなした。 有力者の一言は、またたく間に小さな写真屋を町の片隅へと追いやったのである。 このことを恨んだ保彦の父が、篠原家との縁談を承諾するはずもなく、また、多恵の父とて同じであった。 二人は悩んだ末、駆け落ちの形で家を飛び出し、四国の山奥の小さな町に住んだのである。 その家は、多恵の弟(篠原信二)がこっそり探してくれたものであり、保彦は持ってきたカメラで写真屋を始めたのであった。 田舎町の写真屋の生活は、けして楽なものではなかったが、愛しあった二人には、十分幸せなひとときであった。 しかしながら、「盲目の年上美人と若いカメラマン」である。 この組み合わせは、退屈な田舎町では、怪しい噂の種に持ってこいであった。 暫くはうまくいかない生活が続いていたが、二人の持ち前の性格の良さは、次第に町の人々に理解され、仕事も少しずつ増えて行ったのである。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!