【3】少女の夢

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【3】少女の夢

二人は、その子を「美紗」と名づけた。 美紗は、男の子に負けないくらい活気盛んで、小学校へ入るとすぐに、「ミニ番長」というあだ名を頂戴したのである。 その名の通り、彼女の背丈は低く、学年で一番のチビであった。 毎日、学校から帰って来る彼女を、家の前にそびえる楠(くすのき)が、坂の上から見下ろしている。 彼女が生まれて初めて抱えたコンプレックスであった。 『お父さん。美紗もカメラが欲しい!』 保彦が、ある家族のお祝い写真を撮っている時、美紗がつぶやいた。 彼女は、カメラを覗いている父の姿が大好きであり、自分もいつか、カメラマンになりたいと思っていたのである。 『お前は、まっことカメラが好きやなぁ。』 (※「まっこと」=「ほんとうに」) 『ううん、カメラが好きなんじゃなくて、写真を撮ってる時の、みんなの顔がすきなの。何だかとっても幸せそうだから。』 美紗のこの言葉は、保彦が小さな頃、父親に言ったものと同じであった。 こうして美紗は、父から古いカメラを一つもらったのである。 それからの彼女は、毎日カメラ越しに世の中を見て過ごした。 感じるままにシャッターを押す。 フィルムは入ってない事の方が多かったが、全ては彼女の心の中に残っていったのである。 いつの頃からか、その写真に一人の男子が入ることが増えた。 山口良介。 彼は、四年生の時に市内から来た転校生である。
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