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良介は明るくヤンチャな美紗のことが好きであった。
しかし、人一倍おとなしい彼は、彼女になかなか近づけず、いつも遠くから見ていた。
小学生とは言え、美紗もそのことには気づいていた。
実のところ、彼が写真に写っているのではなく、彼女が、彼を写していたのである。
5年生の春、美紗の方から良介を誘った。
『ねぇ!そこに立ってみて。』
突然のことで、何も考えられない良介は、言われるがままに校庭の桜の前に立った。
『もう少し右。そこそこ。ストップ!はい、笑って。』
言われるままに笑った。
それは、わだかまりの中から脱出した、本当の笑顔であった。
『よかった! 良介君の笑ったとこ見たことなかったから・・・笑わない人かと思ってた。』
『そ・・・そんなことないぜよ。』
『ごめん。そうやね。でももし笑えなかったら、私好きになれないもん。』
『・・・えっ?』
『今度さぁ、家族で出かけるんだけど、良介君もいっしょに行こうよ。』
何だかはぐらかされた気もしたが、彼の喜びは大きな山の頂上に達していた。
『うん!』
美紗の鼓動も実は激しく鳴っていた。
彼女も同じ山の頂きに辿り着いていたのである。
帰り道、二人は今までのことが嘘だったかのように、たくさんのことを話した。
『美紗ちゃんの夢は何ぜよ?』
『私はね、お父さんみたいなカメラマンになって、いっぱいいっぱい笑顔を撮るのが夢なの。カメラの中では、どんな人もみんなすっごく優しくなるんだよ。』
いつも笑顔の美紗らしいと、良介は思った。
いつまでも、その笑顔を守ってあげたいと思ったのである。
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