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【4】桜の坂道で・・・
良く晴れた春の日曜日。
保彦は、なかなか表へ出ない多恵をドライブへ連れ出した。
もちろん、もう一組の若いカップルも一緒である。
この頃の多恵の心は、少し複雑に変化しつつあった。
仕事が波に乗ってきた保彦は、仕事や付き合いで家を空けることが多く、戻ってくると、美紗が待ち構えていて、二人で写真談議に花を咲かすのである。
目の見えない多恵にとって、それは次第に苦痛・・・というよりは、嫉妬の様な感情へと、彼女の心を変えて行ったのである。
次第に無口になる彼女を、保彦と美紗は心配し、この企画を企てたのである。
美紗は、父と母に以前の様に仲良くしてほしくて、自分が邪魔をしてしまわない様、良介にいて欲しかったのである。
目的地まであと半分という頃、緩い下り坂に桜のトンネルが現れた。
『うわぁ~!きれい。ねぇお父さん、写真撮ろうよ。』
『そうやな・・・、ここらで一休みしちょこうか。』
保彦は道路に車を寄せた。
『多恵、久しぶりに君の写真を撮らせてや。』
『わ、私はいいです。美紗を撮ってあげて。私には桜も枯れ木もいっしょですから。』
保彦は、その寂しい言葉をつぶやいた唇に、そっとキスをした。
『保彦さん・・・。』『多恵、元気出さにゃあ。それに、美紗はかっこええモデルを見つけたき、僕はもう振られてしもうたぜよ。』
多恵の顔にわずかな笑みが浮かんだ。
美紗はと言うと、新人モデルを引っ張り回して、変なポーズをとらせては、一流のカメラマン気取りであった。
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