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「なら私の仕事は無いわね…買い物でも行こうかな」
「あ、お供します」
メルティのふとした発言に、ティルスは即座に反応した。メルティはそれを聞くと、顔をニンマリと歪めてティルスの方を向いた。
「何?デートの誘い?」
「ち、違いますよ!」
メルティの悪戯っぽい言葉を受け、ティルスはあからさまに動揺した。当然の如く彼は反論したが、僅かに赤く染まった頬が、まんざらでもない様子を強調していた。
「ふふ、私の目には全てお見通しよ?」
彼女は右目を見開きつつ言った。
一見、只の比喩や誇張表現とも取れるが、その発言はある意味真実を突いていた。
彼女の右の瞳は、僅かに赤く輝いていた。明らかに自然ではないと分かるそれは、彼女がかつて受けた『手術』によるものであり、通常より高い視力や、カウンター的な機能も有している。彼女はそれを敢えて、冗談の種に使っていた。
「……酷いです……」
項垂れつつティルスは返し、メルティはクスクスとした微笑みを浮かべた。
「あら?お二人共、どうされたんです?」
そこに、突然女性の声が響いてきた。一方は笑顔で、一方は赤らめた顔で声の方を向いた。
「ああ、ルーシー。実はティルスがデートの申し込みを……」
「ちょっと!誤解ですよ!」
「へぇー、結構積極的なんですねぇ」
メルティは相変わらずからかうように言い、長い金髪をストレートに伸ばした若い女性、ルーシーもそれに便乗した。
「それはそうとルーシー、今日は何時間寝たの?」
「そうですねぇ…10時間ですか?まだ眠いんですけふぉにぇえ」
メルティの問いに、ルーシーはだらしなく欠伸をしつつ答えた。心無しか、その姿勢もふらふらとして見える。
「あんたも大変ね。ま、また連絡があれば」
メルティは呆れながらも、手を振りつつ言った。
「ひゃい……ティルスさんも頑張って下さいね」
ルーシーもまた手を振り、相変わらず眠そうに通路を反対方向に歩いていった。
「だから違います!……あれで対外交渉人なんだからな…天賦の才って分からないよな……」
ティルスは断固として反論し、呟きつつ、メルティに随行していった。
─────
「ねえねえティルス、これなんかどう?」
「は、はあ……可愛いと思いますよ」
今となっては希な、汚染の殆ど無い都市『バイオス』のショッピングモールに、仲の良さげな男女が居た。
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