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「良二さん……ひょっとして」
「ん、何々?」
ティルスは、良二の先程からの挙動を見て言いかけたが、良二の睨みによって止められた。メルティはそれに気付かず、相変わらず無垢な瞳をティルスに向けた。
「なんでもないですよ。だろ?」
「……ええ」
良二は白々しく、ティルスに念押しの問いかけをした。ティルスは小さく、顔に多少の不機嫌を浮かべながらも肯定の返事をした。
「変な二人……あ、電話」
首を傾げたメルティの腰から、流行りのポップソングが鳴り響いた。彼女はポケットから手の平程の携帯端末を取り出すと、顔の横まで持ち上げた。
『もしもし、今大丈夫ですか?』
端末のスピーカーから、どこか眠そうな女性の声が聞こえてきた。
「おおルーシー、大丈夫だけど何?」
『はい、さっきお祖父様から速達が届きましてね……手紙と小包みでしたよ』
「へえ…」
端から見れば、ごく普通な会話が繰り広げられていた。しかし、この通信には実際は厳重な盗聴対策が施されており、只の連絡でない事は明らかだった。
『すぐに冷蔵庫に入れときましたので。あと、サインは私ので良かったですかね?』
「うん、良いよ。じゃすぐ帰るね」
そう言うと、彼女は端末を叩き、回線を切った。
「帰るって…何だったんです?」
ティルスは会話の内容から、メルティに尋ねた。
「いいから、今日は帰ろうよ。また来ようね」
「はいはい……」
メルティは笑顔のまま、強引に言った。
ティルスは敢えて反論せず、極めて自然に、人混みの中から去っていった。
─────
周囲を漆黒の闇が支配する、廃墟化した市街区の中心に、逆関節のネクストが立っていた。その背中には、本体の倍はあろうかという巨大なブースターが取り付けられている。
「……しかし『BFF』も、大層な小包みを送ってきましたね」
「まあ、今回の依頼には、あの王小龍も関わっているらしいからな……それほど重要なんだろ」
その様子をモニターを通して眺めつつ、ティルスと良二は私見を述べ合った。
「ま、『アンダース』には願ってもないことですがね……メルティさん、行けますか?」
『問題無い。『スピリタス』久しぶりの大仕事だ、気合い入れて行くぞ』
メルティのその言葉の後、廃墟だった場所は変形し、カタパルトとなってネクストを滑走させた。直後、音速を遥かに越える速度で、一つの影が轟音と共に飛び去っていった……。
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