1:in Silence

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「数だけじゃね……」 彼女は呆れたように言いつつも、逆関節の脚部をバネのように伸ばし、愛機を跳躍させた。同時にその背部に装備されたミサイルポッドが開かれ、一発の誘導ミサイルが放たれた。 それは3機単位で陣形を組むMTに向け飛翔し、直前で8発の子弾へ分裂すると、過剰とも言える爆発により一気に凪ぎ払った。その爆光が、暗闇の中にあって眩しく煌めいた。 『こ…コン畜生ッ!!』 突如、ローゼンタール機がベースと思われるノーマルが、盾を構えライフルを乱射した。周囲のMTやノーマルは、その勇敢な行為に加勢し、キャノンやミサイルをネクストに向け連射した。 「………」 彼女は自分に向け集束するロックオンレーザーを感じると、愛機のブーストに緩急をつけ、落下のベクトルを変えた。 その微妙な動きにFCSの偏差射撃機能は惑わされ、超高速で突き進む幾多の弾丸はネクストを掠めるだけに留まった。 しかしミサイルの場合はそうも行かない。彼女は角度を変えつつ迫る無数のミサイルを捉えると、オーバードブースト(OB)の使用をイメージした。 刹那、ネクストのコア後部が横に広がるように独特の展開を見せ、カバーが開放された。そのノズルから凝縮されたコジマ粒子を伴ったジェット噴流が吹き出し、ネクストを一瞬で音速の世界へとシフトさせた。ミサイルはその急激な機動の変化に追従出来ず、明後日の方向へ飛び去るか、地面に激突し哀れな最期を迎えるかしかなかった。 そして、難を容易く逃れたネクストはノーマル・MT群の中心へと飛び込み、地面を滑ってダイナミックなブレーキをかけた。 「不本意だけど!」 彼女はどこか苦々し気に言うと、OBのノズルを介し、プライマルアーマー(PA)の整波パターンを変更した。そしてPAが妙に激しく輝いた次の瞬間、緑色の光は膨張し、ネクストを中心として有象無象を覆い尽くした。 ネクストの頭部がカメラ保護用のシャッターを開いた頃、その周囲は大きく様変わりしていた。ありとあらゆる物質が原形を留めておらず、付着したコジマ粒子がその圧倒的な破壊に追い打ちをかけていた。 『全滅を確認。ミッション完了です』 彼女の耳に、若い男性の声が響いた。 「…了解、事後処理はいつもの通りで」 『承知しています』 彼女は事務的に答えると、AMSのレベルを落とした。 数秒後、戦場から漆黒の空へと飛び立つ、あまり知られていない一機のネクストがあった……。
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