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無機質な機械音や喧しい騒音が鳴り響くメンテナンス・ガレージの中心に、外装を取り外され、無数のアンカーで固定されるネクストがあった。
周囲は金属やオイル、また洗浄液等の匂いが立ち込め、新参がマスクも無しに入ろうものなら、即座に踵を返すか卒倒する程の空間となっていた。
「……で、チーフ…どうよ?」
その足元に、漆黒とでも言うべき黒髪を揺らし、袖の大きな民族服風のグレーの上着と、微妙に色調の異なるロングスカートを纏った女性が立っていた。
この場に全く合わない装束のその女性は、ゼリーパックから伸びるストローを口にくわえつつ、隣に立つ男性に尋ねた。
「そうっすねぇ……モーターとフレームの点検補修くらいですから、そう時間はかからないと思いますよ」
男性は、頭を適当に掻きつつ答えた。チーフと呼ばれたこの男性は女性と対照的に作業服に身を包んでおり、捲った腕からはっきりと見える隆々とした筋肉も相まって、いかにもベテランの整備士といった様相を醸し出していた。
「なら良かった。流石はチーフね」
女性は短く、しかし称賛をもって言った。
「いやぁ、流石なのはメルティさんの方ですよ。あれだけの戦闘で、この程度しか消耗してないなんて」
男性は、爽やかな笑顔を浮かべて言った。メルティと呼ばれた女性は、それを受け口端を斜めに吊り上げ、軽く歯を見せた。
「大した事はない。……じゃ、あとはよろしくね」
メルティは謙遜しつつ返し、チーフに背を向け、手を軽く振りながらガレージの扉を開けた。
チーフは頷いて了解を表すと、同じく手を振った。
メルティはそれに一瞥をくれつつ、扉から出た。間髪入れず、屑籠に飲み干されたパックが投げ込まれ、小さな振動と音を立てた後にそこにあったゴミの一つと化した。
─────
「……ティルス、後の所は?」
所々が錆び、照明の無駄に明るい通路を歩きつつ、メルティは付き添うように歩くティルスに尋ねた。
「回収部門はいつもの通り、諜報部の方は…『鋭意調査中』のようですね」
ティルスは手元の携帯端末を叩きつつ、皮肉を込めた口調で答えた。
「また?最近は一点張りじゃない……別に怒らないのに」
「向こうにも、向こうなりのプライドがあるんでしょ」
呆れたように言うメルティに、ティルスもまたおどけた風に返した。
並んで歩く二人は、実際には上司と部下という関係ながら、仲の良いカップルのようにも見えた。
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