き た い

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前髪を右に流して 首を傾ける 今度は左に流して ピンで留める 「うぅ……」 思わず声を漏らし、時計に目をやる。 「やば。もう八時だし」 焦った顔をした鏡の中の自分は理想の自分に程遠くてげんなりする。 真新しい制服に身を包んだ、見慣れない自分。 この日の為に髪型も、メイクも研究してたつもりだけど、雑誌の中のモデルさんみたいには到底なれない。 なれないけど……なりたい。 もう一度分け目を変えて、ピンを留め直す。 「あぁ……もうダメ」 緊張。 不安。 期待。 今日から『高校生』になるプレッシャー。 多分、ママに言ったら笑われるだろうけど、ちゃんと友達ができるかどうかも、素敵な男子と出会えるかどうかも、むしろこれからの高校生活の全てがこの前髪にかかってるような気がして……。 時計に目をやる。 八時半。 恐ろしい時の流れ。 入学式早々遅刻するわけにもいかない。 情けない顔をした鏡の中の自分を励まして、家を飛び出した。
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