き た い

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「……ない」 握りしめた受験票の番号を、合格発表掲示板に見つけた瞬間、隣にいた麻美が、そう漏らした。 あげそうになった喜びの声を、圧し殺す。 「うそ……」 「由奈は!?」 麻美は一瞬にして笑顔を取り戻し、私の手から受験票を奪っていった。 「お! ちゃっかり受かってんじゃん。おめでと」 にこっと微笑み、受験票をあたしの胸に突き当てる。 「うん。……ありがと」 「受かったんだから、嬉しそうな顔しなさいよね。アンタに同情なんかされたくないし」 呆れた、といった口調で麻美が言う。 「はい。……すいません」 「わかればよし。じゃ、マック行こ」 本村麻美(もとむら あさみ)とは小学校の頃からの付き合いで一番仲が良い、いわゆる【親友】というやつだ。 でも二人の仲を【親友】という言葉でくくるのはなんとなく恥ずかしくて、あたしたちはお互いを【相方】と表現している。 人見知りの激しいあたしは、高校生活も“麻美と一緒”ということで、どこか安心している部分があった。 小中と、いつも一緒に過ごしてきたのに、今日からは別々。 落ちてしまった麻美の心境を考えれば、そんな事言っていられないのだけれど、急に一人で放り出されてしまったみたい。 歩みを止め、新しい環境に祈る気持ちを込めて呟く。 『三年間よろしくお願いします』 あたしの高校生活が幕を開けた。
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